新型ジムニーのキーレス用レザーカバー。

ジムニーの、キーレスリモコンの話です。
2018年にフルモデルチェンジをしたジムニー。
型式はJB64とJB74となりました。
わたしも7月の予約開始と同時にオーダーし2018年の10月に納車されました。
予約が1日遅れていたら1年待ちになっていたと思います。

さて、このジムニーから採用されたのがプッシュ式のエンジンスターター。
キーレスリモコンを持っていてもエンジンが始動できるものです。
またドアハンドルのボタンを押すことで施錠、
解錠ができるのでとっても便利になりました。

なのですが、キーレスリモコンを鍵などにつけておくと傷だらけになります。
また落としたりするとリモコンの破損にもつながります。
そうしたトラブルからリモコンを守ってくれるのがカバー。
色々な人がこのカバーを製作されていますが、
実は純正OP以外のアフターマーケットで最も早くこのケースを作ったのが私だと思います。
とはいえ製作してからテストを繰り返してリリースできたのは12月頃でしたが。 

こちらがそのキーレスリモコンのカバー。
今回はその製作過程をお見せしたいと思います。


まず革ですが私はキメが細かく、しなやかな感触が魅力の栃木レザーを使用しています。
ちなみに栃木レザーは一般名称ではなく商品名。
栃木レザー株式会社が原皮をフルベジタブルタンニンなめしで仕立てた皮革のことです。
その革は付き合いのある卸屋さんから仕入れます。
一口に革といっても生きている牛から取るので、生前のしわや傷が入っています。
これも味といえばそうなのですが、商品はできる限り綺麗な状態でお届けしたい。
なので革選びはとても気を使います。
最近では良い革が入ると卸のほうで取り置いてくれるのでずいぶん楽になりました。

その革をレザーカバー用の厚みを調整してもらい、事実上このレザーカバーのための革にしてからうちに届けてもらいます。
その厚みは企業秘密ですが、調整はコンマ以下でお願いしています。
とはいえ工業製品ではないので厚みにはブレがあります。
その厚みを正確なスケールで測り1/10ミリ単位で使えるところを切り出します。


ちなみ購入するのは半裁と呼ばれる大きさ。
牛さんをタテに切った半頭分のサイズです。
この革を仕事場に広げると室内が革のいい香りに包まれます。
これを使いやすいサイズに切り分けます。
ちなみに半頭分とはいえ傷のない商品にできるのはその半分くらいでしょうか。
硬すぎず、柔らかすぎない部分を選ぶのです。
特にお腹の部分は繊維が詰まっておらず、伸びやすいのでお金をいただく商品では使えません。


こうして切り出した革の裏面を樹脂でコーティングします。
こうしないと革の繊維がボロボロと落ちてしまい、カバンやポケットが革のゴミだらけになってしまいます。
これも塗る方向を間違えると革がよれてしまい使い物にならなくなるので、1枚1枚、革の繊維方向を見ながら手作業で塗り込んでいきます。


1日ほど乾燥させてると型紙にそって正確にマーキングします。
これが革製作でもっとも気を使う工程かもしれません。
革の伸びる方向、具体的にはキーレスリモコンの横方向には伸びてほしいけど、
縦方向には伸びないように型を取ります。
なぜならベルトがあるので、縦方向に伸びるとベルトが緩くなってしまうから。
そのうえで傷のない場所を選んでいくのです。


続いて線にそってナイフで切り抜いていきます。
ナイフは革製作用に福井県の刃物職人にオーダーした特注品。
素材だけでなく、刃の厚み、角度、刻印(銘)の位置まで注文しました。
おかげで余計な力を入れず細かなカーブまできれいに切ることができます。


切り出したパーツのエッジを整えていきます。
これにはヘリ落としという道具を使用します。
市販の道具ですがこれは何本も持っています。
それは革の厚みや、商品によってつけたいアールが異なるから。
そのアールに合わせて刃をつけなおすのです。


次に表側のパーツに金具を固定します。
これは真鍮の無垢材から削り出したもの。
特殊なサイズなので真鍮パーツの卸屋さんに行き、数万点の中から見つけ出しました。
ネジ式ではなく打ち込む形状のため緩んで紛失することがありません。
またメッキではなく真鍮無垢なので使っていくうちに光り方が変化します。


金具の裏側にはキーレスに傷がつかないように革を貼ります。
これは1㎜の厚さに調整した豚側を使用。
豚側は引き裂きは擦れに強いのです。



各パーツが仕上がると縫いにはいります。
外周を縫うのは50年ほど前のオールドミシン。
モーターも付けているのですが、レザーカバーは全て手回しで縫います。
ちなみに糸は耐候性があるやや太めのナイロン。
縫うピッチ(幅)は約2.8㎜にしています。
これは上品さとワイルドさの両方を演出したいから。
なお細い糸を細かなピッチで縫うと上品さが、太い糸を大きなピッチで縫うとワイルドさがでます。


外周はミシンですが端は手縫いで仕上げるのもわたしのこだわり。
こうすることでほつれにくいだけでなく、革の硬さに合わせて手で締めこめるので、ケースが丈夫になるのです。
また糸の色はベージュにしています。
最初は革と同じ色なので目立ちません。
ですが革のタンニングが進み飴色になると糸が目立ってくるのです。
これも使うオーナーにだけ分かる愉しみだったりします。


このキーケースの特長は鍵の形に合わせてぴったりとフィットしていること。
このため型紙はコンマ以下の数値で調整しています。
さらに純正のリモコンを入れて1週間ほど革に形を覚えてもらいます。
このリモコンもジムニーの純正パーツ。
ディーラーで取寄せたものです。


形が付いたら塗った外周のエッジを磨きます。
コバ磨きと言われる作業です。
色を塗ったり蜜蝋を塗り込んだりとさまざまな方法がありますが、コバは水が染みやすく傷みやすい箇所でもあるので、わたしは裏面に塗った樹脂をコバにも使用します。
塗り込むのは最初はルーターで。
最後は手作業で行います。
ちなみにルーターのビット(先端工具)も自作しました。
製品に合わせた形状でなければきれいに磨けないのです。


こうして完成したのが左側。
購入していただくとこの状態でお届けします。
※リモコンは付属しません笑
ですが使っていくと右のような艶やかな飴色へと変化します。
これは私の私物で約2年ほど使ったもの。
手入れはあえて何もせず、日焼けと手の脂だけで育ててみました。
上質な革なので革の繊維も締まり、緩くなることもありません。


とっても手間がかかるのでどうしても大量生産ができないのです。
が、使っていただくときっと満足していただけると思います。
ちなみに販売はイソノカミデザインのヤフーストアのみ。
また革製品や真鍮は作り置きをすると色褪せたり錆びたりしてしまいます。
そのため売り切れていてもすぐに在庫を出せないので、もし見つけたらお早めにどうぞ笑。


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