靴を創るはなし。

<はじめに>

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靴をつくりました。
「海外旅行で、自宅から現地ホテルまで履く靴」
というのがテーマです。

空港や飛行機、ホテルといった公共の場所において、スニーカーなどあまりにラフな格好で移動したくありません。
かといって本格的な革靴では長時間の歩行には疲れますし、機内では足がむくんでしまいます。
履いていて楽で、歩きやすく、それでいて革靴の上質さもある。
スーツは無理としてもデニムからチノにまで合わせれてニットでもTシャツでもジャケットでもおかしくない。
そして個性的でおしゃれなデザインであること。
ありそうでない、そんな靴をつくることが目標でした。

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靴をつくるというとビスポークでオーダーするのが一般的でしょう。
もちろんそれも一つの方法です。
ユーザーサイドからは欲しい形や色を伝える。
職人サイドはクライアントの意図をくみとり、それを自分の技術と照らしあわせ、
さらにさまざまな素材や製法をもちいて実現する。
ほとんどの人はそうして理想の靴を手に入れます。

しかし私の場合は木型選びや革選びから製靴まですべて自分でおこないました。
もちろん、とつぜん靴が作れるわけではありません。
わたしの場合は靴教室に通いはじめて4年経っています。
それまでにも3年ほど自分で革製品をつくり、販売もしています。
そんな経歴があってこその「趣味の靴作り」なのです。


こちらが完成した靴。
昔の木靴のようなふくらんだ丸いつま先がデザインの特長です。
つま先の形状は基本的に木型に左右されます。
しかし履き口の形や革、ステッチの色などはすべて自分でデザインします。


使用した革は栃木レザー株式会社製。
動物の体からいただいた「皮」を処理して製品となる「革」にする工程を「なめし」といいます。
そのなめし工程において使用するのが植物性の処理剤、いわゆるタンニンです。
この革も「タンニンなめし」をすることで革本来の素材感を残しています。
このタンニンなめしで仕上げた革は「ヌメ革」と呼ばれます。
ちなみに化学合成の処理剤をクロムといい、それでなめした革を「クロムなめし」といいます。
このあたりについては、今後紹介します。


革の色は染色どころか脱色もしていない本当のナチュラルカラー。
よくヌメ革というとベージュの革だ思っているひとがいますが、
ヌメ革でも染色したさまざまな色の革があるのです。
なお完成品は作り始めてから6ヶ月が経っているので若干日焼けをしています。
この日焼けをして色が変化していくのがタンニンなめしで仕上げたヌメ革の魅力です。


この革を使った理由は靴の形にあります。
丸みを帯びた形状はどちらかというと女性らしい、かわいいデザインです。
それも悪くはないのですが、少し男性的なテイストも入れたかったのです。
そこで漂白をしていないワイルドな革を使用したのです。



一般的な男性用の靴ではつま先や足が曲がるジョイントラインと言われる部分を継いでいます。
しかしこの靴、かかと以外に縫い目がありません。
くるぶしの下のステッチはかかとの裏革を止めるためのもので、甲革(アッパー)は一枚革を使用した、ぜいたくな仕様です。
こういったステッチや履き口、かかとも含めてすべて手縫いで仕上げました。
ただし手縫い感があるとカジュアルになりすぎるので、細いナイロン糸を使用して繊細な見た目としています。


アウトソール(靴底)は旅先で天候を気にせずに履けるように合成ゴムとしました。
サンダルで有名なビルケンシュトックのソールです。
またかかとは革を積み、釘で打ち付け、周りを削った仕上げています。


中敷の下にあるインソールもレザー製。
コルクペーストも詰めており、履くほどに足の形にフィットする手法なのです。
もちろんアッパーも革をワニと呼ばれる製靴用の工具でつり込み釘で打ち付け形を作り出しています。
これらはすべて本格的な紳士靴に使われる手法です。
こういった技術を使って、自分が欲しい靴を、自分で作る。
何物にも代えがたい喜びと楽しみがあります。

靴作り、みなさんもいかがですか?
仕事でするのであれば10年は修行が必要ですが、自分用ならば2年で初めての1足が完成します。
手間のかかるところを手抜きするば1年でも完成するでしょう。
きっと、一生の趣味になりますよ。

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